北の国から83冬
北の国からシリーズでも特に寂しい雰囲気漂う
あの笠智衆の話ですよ。
~完全ネタバレです~
───五郎がみどり(正吉の母)の借金の連帯保証人になっていたことから、700万円のの借金の肩代わりをする事なって、すったもんだの話。
この回の冒頭、家出した正吉が純たちの前に現れ、以来五郎の家にしばらく居候する事になっていた。年明け、そんな純、正吉、蛍たちの前に謎の爺さんが現れお年玉をくれる。中身は50円。
その爺さんは沢田松吉(笠智衆)。開拓時代、豆大臣と呼ばれていた伝説の人。五郎の借金の話を聞き、「ワシの山を売ればよい」と言うが、実は山も財産も何もない。
松吉はボケている。
みどりは水商売の女で、借金はどうやら麻雀が花札かそんな感じの博打のもの。
五郎はそれは知らず(確認もせず)二つ返事で印を押してしまった。
みどり本人はトンンズラ。息子の正吉も五郎が面倒を見ている、という状態。
清吉(大滝秀治)は農家のみんなで何とかすると
「いいか五郎。早まって、地べた放したら終わりだぞ。みんなの世話になれ」
しかし五郎はちじこまって顔を上げられず、ごにょごにょと
「それはできません・・」
五郎がみどりの借金を背負わされた事は子供たちの耳にも入る。例によって口の軽い草太兄ちゃんによって。正吉はショックで、やさぐれ、正吉の役割、屋根の雪下ろしもせず花札で遊んでいる。そこに帰ってきた五郎。おもわず正吉につらく当たってしまう。
「そういう博打のようなもの、このうちに持ち込まないでくれないか」
とその花札を外に投げ捨て、正吉は家を飛び出す。
この頃の五郎さん、時々こういう殺伐とした感情を子供に向ける事があって、シリーズ晩年のなにがあっても優しいだけの五郎さんと違って、またいいんですよね。
今回も大人たちの前ではすっかり顔を上げられず、ちじこまってばかりでしたが、そのうっぷんを正吉にぶつけるという感じ。
そのくせみどり本人には「金の事なんて忘れちゃえよ」なんてかっこつけてる。
しょーもねーけどあるよね、そうゆうこと。
と、つい苦笑しながら見てしまうのでした。
ああ、正吉が家を飛び出した夜、夜逃げして本格的に富良野を去ろうというみどりが
五郎に会いに来て、五郎は文句ひとつ言わずに見送るわけです。
「金のことなんて忘れちゃえよ。もう故郷に帰れないなんて、そんなこと言うなよ」
「ごめんね、五郎ちゃん」
閉まる電車のドア。流れ出す中島みゆき「異国」。
───翌日、帰ってきた正吉は屋根の雪下ろしをして、落下し雪に生き埋めになる。
幸い、一命は取りとめる正吉。病室で眠る正吉を見守る純たち───
そのシーンでの純のナレーション。
「正吉は屋根の雪下ろしをやったんだ」
「それが、父さんを喜ばせるたった一つの事だから」
「正吉は、屋根の雪下ろしをやったんだ」
このシーン、悲しすぎるとか、暗いとかいう人も多いようだけど・・・。
五郎に八つ当たりされ飛び出した正吉は、吹雪の中一晩外で過ごし。
翌朝、帰ってきて、家の中にも入らず、誰にも気づかれず、
だまって屋根の雪下ろしをしたんです。
イイ男じゃねえか。正吉。
───結局、借金は村の人たちが少しずつ農協から借りて工面してくれて解決。
しかし、松吉は納得いかない。
どうしてわしの山を売らない。
わしの山を売ればすむことじゃろうが。
五郎ら大人たちは、松吉の気持ちがありがたいから、「あなたボケてます」なんて言えない。
たまらず孫娘の妙子(風吹ジュン)が切り出す
「山なんてとっくに無いのよ!」
「借金だけ残して、私たち捨てていなくなって、あの後、どれだけお父さんや兄さんたち苦労したと思ってるのよ!いい事だけ思い出さないでよ!」
そして、北の国からファンには有名な名シーン
「ま~め~」
と、吹雪の中、雪の上に豆をまく笠智衆───。
このシーンもただ、ボケたジイサンの悲哀を描いているわけではないんです。
強烈な、故郷への愛。
───郷愁。
を描いているのだと思います。
ここでもっとも印象に残るのは蛍の目線。
連続テレビシリーズの杵次(大友柳太郎)のときもそうだったけど、昔の威光を背負っている年寄りに対して、大人たちが、ちょっと煙たい、微妙な目線を送るのに対し、
蛍は、優しさと労りに満ちた目を向ける。
おかあさん(いしだあゆみ)には冷たい態度をみせていた蛍だったのに・・・
子供ながらに、おじいさんの人生、これまでの因縁はなんとなくわかっているでしょう。
故郷を追われた人間、いや、自ら捨てた人間でも
故郷に対する思いはずっと抱き続けていた。
それが蛍にはとても尊く、見えたのでしょう。
そして、僕にも。
2017・1・19