「北の国から92巣立ち」ドラマ感想
前編
~~完全ネタバレです~~
この回から前篇・後篇の2部編成となり、エピソードも盛りだくさんになってきます。
長文になりすぎてもなんなのでレビューも分けていきます。
今回は五郎さんの近況から。
富良野で一人暮らしになりました。「あきな」というワンコ飼い始めたようです。
家また変わってますぞ。フライパン風車の家、雪でつぶれてしまったそうで、
今は中ちゃん(地井武男)の会社のいらなくなった倉庫を改良して暮らしているようです。
家も身なりもさらにみすぼらしくなって・・・。
地元富良野の診療所の先生を、みえみえのわざとらしい偶然装って、待ち伏せして、来年から蛍が就職できるように根回したり。旭川の病院に車飛ばして、内緒でと先輩看護婦さんに人参持ってったり・・・。来年看護学校を卒業する蛍の帰りを待ちわびる、悲哀たっぷりのコミカルおじさんになってます。
本格的に大工の棟梁(大地康夫)に弟子入りし、自宅のログハウスづくりも、基礎からきっちりこつこつ進行中で、とりあえず今は石の基礎と風呂だけができているようです。
まだまだ老け込まないぞ、という気概はあるようです。
そこへ雪子(竹下景子)が息子ダイスケ連れてやってくる。数日間の気晴らし旅行という風情で。
どうやら夫(村井国男)とうまくいってない模様・・・。
「子供ってどっちが幸せ?母親と暮らすのと父親と暮らすの・・・」
なんてつぶやかれて。純と蛍の子供時代を思いだしながら・・・
「俺にはわからんよ・・・」
――そりゃそう言うしかないよね。ここも文章では表せない、いいシーンでした。
蛍は、旭川の看護学校は変わらず。毎日、日の出前に送ってもらうのはさすがにしんどく学生寮に入ったようです。勇ちゃん(緒形直人)は帯広の畜産大学に入ったようで、旭川と帯広で中距離恋愛?を続けている模様。
その途中、富良野で乗り換えがあるのですが、改札は出ることなく。
五郎のもとにはほとんど帰っていないようです。
実は蛍、来年卒業したら札幌の大学病院に就職し正看護師の資格を取りたいと思っていて、
富良野の診療所で働くことを期待している五郎に、そのことを言わなければならないと思うと、気が重く、つい足が向かないわけです。
――それにしても勇ちゃん、3浪して帯広の畜産大学かよ。まあ、「風の又三郎」読んでたぐらいだから、信念もって選んだのでしょう。しかし、あの純朴な男が、下心満々になって。それもまあそういう年ごろなのでしょうけど、大事な話になると抱き着いてごまかす。って。
こういう奴はダメだ~蛍。
ある日、帯広からの帰り、富良野で電車を乗り換えた蛍は、数年ぶりに正吉に再会する。
正吉は自衛官となりますます男らしくなっていた。
正吉は「おじさんとこ行ってきたのか?」と当たり前のように聞くが
蛍は、ただ乗り換えてるだけでもう何か月も富良野の改札は出ていないと話す。
蛍「このこと父さんに言わないで」
正吉「ああ。言えねえよ」
夏祭りの時、久しぶりに富良野に帰った蛍だったが、結局、五郎の家には泊らず
日帰りで旭川に帰ってしまう。その日、札幌の病院の先生との会食の約束あって・・・。
ガックリしょぼくれる五郎だったが、
「おじさんと飲もうと思って」と酒を持って来る正吉。
五郎の家に行って、泊まるつもりで深夜まで酒盛りして。
そして突然改まり、「怒らないでください」と、
そっとお金を差し出す。子供の頃迷惑をかけた事を謝り
(母みどりの借金を肩代わりさせた事。丸太小屋の火事の事)
「これから少しずつ返しに来ます」
いらないと返そうとする五郎に
「俺、息子だと思ってますから」
───やっぱイイ男だぜ。正吉。
さてさて東京の純は。
高校は卒業し、家は雪子おばさんの家を出て、アパート借りて一人暮らし。
仕事はガソリンスタンドでバイト。もともと、何か目的があったわけではないのが、
そのまま、いまだ見つからず、なんとなく浪費するだけの日々を送っている。
ガソリンスタンドでのあだ名は「ダル」。いつもだるそうで覇気がないから。
といっても会う事はなく、毎週土曜日の同じ時間に同じ映画を観て、その後電話で感想を言いあい、また来週の映画を決める。というもの。
それでもレイちゃんはホントに楽しそうなんだけど。純がね~。
リアル女体が欲しくてしょうがないんだな~。
まあ、そういう年ごろですよ、19歳~20歳って。
純の働くガソリンスタンドの隣に、しょっちゅう配達に来るピザ屋のバイト、タマコ(裕木奈江)との出会い。レンタルビデオ屋で「ライムライト」手に取って、戻そうとした純に
「それ、すごくいい」と声をかけたタマコ。
純も観て「すごく感動した」「でしょでしょ」という感じで仲良くなって。
レイちゃんとの電話映画鑑賞会をわびしい友達の話としてタマコにしたら
「今度一緒に観よう」という事になり、どこで?という事になり。
タマコの家は怖いおじさんと一緒に住んでるからダメ。純のアパートは女性連れ込み禁止でダメ。から「ラブホで観よう」という事になり・・・。
タマコは純粋に映画観たかっただけのようだけど純は映画どころではなく・・・
押し倒し。そんなつもりじゃない言われ。なんだよとふてくされ。怒った?怒らないで?純君に嫌われたくない。いいよもう。いいよ。しよ。
そこからはタマコと映画と肉欲の日々・・・。愛はないんだと。
――う~ん。ホント純キモイぜ。なんでこんな奴がモテるんじゃ~。
しかし、自分の同年代の頃を思い返せば。同じようなもんだったかな。
「ジョゼ虎」のブッキーとかも思い出したけど。責任とか、愛とかそんなことは考えてない。
女性との付き合いは大人への階段の通過点。紆余曲折経てイイ男になる「経験値」をつむための練習台。ぐらいにしか思ってない・・・。
それを堂々と豪語して、相手もそのこと承知したうえで付き合うみたいな・・・
後から考えればそれぞれに愛はあったと思うんだけど・・・・。
失ってその尊さに気づくというやつで・・・
今回、前編のクライマックスは草太兄ちゃんの結婚式。
八幡丘でド派手な結婚式を開催。
草太自ら演出して。「ツァラトゥストラはかく語りき」流して。(2001年宇宙の旅の曲)
自分は馬で登場し、新婦アイコ(美保純)はトラクターで登場する。
みんな「バカだなあ~」と思いながらもそこに水を差す人はいない。
草太の気持ちがわかるから。ずっと苦労してきた草太の気持ちがわかるから。
兄たちは都会に出ていき、草太も若い頃は嫌で嫌で仕方なかったのが、なんとか留まって。
アイコはそんな過疎の酪農の家に、ようやく来てくれたお嫁さん。
医者にはダメかもしれないと言われていた子供も授かって、絶頂に浮かれる草太。
看護婦見習いの蛍だけは「トラクターに乗せるの止めたほうがいい」とはっきり言うが、
浮かれて聞く耳持たない草太にそれ以上は強くは言えない。
そして案の定・・・流産。
病院で、草太の父、清吉(大滝秀治)の五郎に向かっての言葉。
「あいつはバカだ。考えりゃあ分かることだ」
「妊娠5カ月でトラクターに乗せて・・・」
「でもワシ止められんかった」
「あいつがバカみたいにはしゃいでる姿見て」
「どうしてもワシ止められんかった」
あえて冷たく言えば人災ですよ。明らかに防げた人災。
みんなが草太を思う気持ちがもたらした人災です。
しかし、これがリアルなひとの人生というもの。
これが倉本聡の真骨頂だとおもいます。
ただ悲しい事故で涙を誘ってるわけではないんです。
そこに生きる人間の思いを描いているわけです。
そしてその頃、運命のいたずらか・・・
東京の純(純は草太兄ちゃんの結婚式出なかった)タマコから
「できちゃったみたい」
と言われ。後編へ続く・・・。
後編
「できちゃったみたい」言われた純。
「病院行ったのか?」
「行けるわけないでしょ。純君一緒に行ってくれる?」
「・・・」
――コラ~!いくら二十歳とはいえ、病院ぐらい一緒に行けるだろーよ!
しかしまあ、この無言と、表情がすべてだったのかな。
一瞬の表情が人生を変える瞬間ってあるもんですね~。
そんな純に見切りをつけたのか?
タマコは一人で病院に行き、中絶手術を受ける。
純が慌てて病室に駆けつけると。もうすべて終わっていて・・・。
タマコのおじ(菅原文太)に殴られて。親を呼べと言われ。
飛行機ですっ飛んでくる五郎さん。
「ひとつ聞くけど、結婚する気あるの?その娘さんと」
「・・・」
「そうか。そうだよな~。まだ若いもんな~。うん。謝っちゃおう」
――おいおい五郎さん。昔の気骨はどこいったのよ。そりゃ言われるわな~
かぼちゃ並べて。ひたすら頭を下げる五郎と純に
「誠意って何かね」
富良野に帰った五郎さん。
自宅のログハウスのために用意していた丸太300万円で売る決意。
3年間、こつこつ一人で皮をむいてきたあの丸太。
大工の棟梁(大地康雄)「どうするんだそんな金。あんたには大金だろう」
五郎「大金だ。ギリギリの大金だよ。ギリギリだからどうしてもいるんだ。誠意ってやつさ」
結局、五郎が送ったその金はタマコから純に返される。
「誠意はわかったから、受け取れない。おじさんもそう言ってた」
「私たしはもう大人なんだし、大人として行動したんだし。だから責任は私にあるんだし」
「・・・」
「純君、私も来週鹿児島に帰るの。それでそれきり東京を引き上げるの。東京はもういい。私、卒業する。純君とのこと楽しかった~。私ぜんぜん後悔してないから」
と、つとめて爽やかに、去っていくタマコ。
――なら初めからそう言ってくれよ。しかしまあ、そういう事でもないのか・・。
タマコがそう思えるようになったのは一連プロセスを経た結果かな・・・。
女心は今だよくわからないけど・・・。
この時のタマコの心境は?ホントに言葉通り吹っ切れていたのか・・・。
まだ純が一緒になろうと手を握ってくれることをどこかで期待していたのか・・・。
その頃富良野では、五郎が丸太売った事、中ちゃんが知って。
丸太全部売っちまったのか?家建てるの止めるのか?やめん。やめんたってお前丸太売ったら。丸太使わんでも家は建つ。タダで使える材料見つけた。灯台下暗しだ中ちゃん。俺ら見慣れて気が付かんかったけど。あそこにも。あそこにも。あそこにも石の山がある。(農地開拓で出た石)おれは木は捨てて、石で家作る。風呂作ってみてこれなら大丈夫だって。ところが中ちゃん。風呂作ったはいいけど、水がねえべさ。沢から水ひきゃいいって簡単に決めてたけど、沢がきてないでしょう。どうすんだよ?井戸掘る。井戸掘るったってボーリングには金かかるぞ。自分で掘る。昔親父が言ってた。そこら辺テキトーに30尺ほりゃ出るんでないかい。30尺っていや~お前3階の高さだ。無理だよ。中ちゃんこういう歌知ってるか?
「やるなら今しかねえ~やるなら今しかねえ~」
知らんべ中ちゃん。遅れとるべな~。ナカミゾツヨシだ!(長渕剛「西新宿の親父の唄」)
――このシーンは、よくものまねされるコミカルシーンだけど、まさにこの回の核心部です。逆境をプラスに転じてたくましく生きようとする、五郎の生きざまの真骨頂が描かれているわけです。
中ちゃんや棟梁からは無理だ!変人だ!言われ続けても気にせず井戸を掘り進める五郎。
それは純と蛍が正月に帰ってくるのに間に合わせたいという思いがあったから・・・。
そしてついに水脈を掘りあてた!
――これドラマ的ファンタジーに思われそうですが、実際、富良野で暮らし始めた倉本さんが、富良野の人たちがテキトーにこのへんっだべって井戸を掘り始め、岩盤にぶち当たっても、コツコツ、コツコツ、時に1年以上かけても諦めず、ついには水脈を掘り当ててしまうという、北海道の農村に暮らす人たちのおおらかさと、たくましさにカルチャーショックを受けたという実体験をもとに書かれた話だそうです。我々都会人の暮らしがいかに電気に頼って成り立っているか。水道も電気ですから。台風とかで大停電になった時の都会人の脆さ。
そんなことを痛感したそうです。
大みそか。
帰ってきた純はタマコから返されたあの金を五郎に返す。
「ありがとう。気持ちは分かったからって。あれから彼女と話たんだ。俺たちもう大人なんだし。自分らのやったことの責任は自分で背負わなきゃいけないはずで。これからは、もう、俺のことは、父さん責任ないんだから。だからこれ返します」
「そうだな~。もう、成人だ・・・」
が、五郎は受け取らず
「一度やったもんはいらん。やった以上見栄っちゅうもんがある。しまえ~しまえ~」
純が金を懐に収めると
「それでいい。ひじょ~にもったいないがそれでいい」
不敵に、にこやかに笑いだし
「金を失って、オイラ、でっかいもんみつけた」
「ずっと忘れてた、大きな事を思い出したんだ」
「金があったら、そうはいかなかった」
「どういう意味ですか?」
「金があったら、金で解決する」
「金が無かったら、知恵だけがたよりだ」
「知恵と、てめえの持てるパワーと・・」
そして蛍を駅に迎えに行く。
改札を出てきた蛍を大喜びで迎える五郎。純。
が、蛍の顔は固い。背後に勇ちゃんも来ていた。
とりあえず富良野の病院の先生のところに挨拶に行こうという五郎に
蛍は先延しにしていた札幌の大学病院で働きたいというあの話を切り出す。
事務的に、淡々と、冷たく、早口でまくし立てる。
春からの就職のことなの。札幌に出るの。札幌の病院に就職決めたの。正看の資格がどうしても取りたいの。そのために札幌の病院に行くの。富良野には戻ってこれないの。ごめんなさい。財津先生には私が謝ります
そして、これから勇ちゃんの家に挨拶に行くと。
――この蛍の冷たさはきっと優しさと弱さなんだろうな~五郎の気持ちを裏切る自分が辛くて・・・世の中すべてが自分を責める敵みたいな気分になってるなかな・・・。
ガックリ肩を落とす五郎。純と二人で家に帰る。
五郎と二人きりの純はたまらず車を借りて蛍を迎えに行く。
一人残された五郎は、石の風呂に行く。
あたりは吹雪で屋根には大量の雪。まずは雪下ろしをしようと屋根に登った五郎。
足を滑らし落下し、崩れてきた木材の下敷きとなり足を挟まれ下半身が身動きできない。
その頃、純は蛍を連れ、家に戻ってくる。
が、五郎はいない。純と蛍は、石の風呂の事は知らない。
夜中になっても帰ってこないことに、おかしいと気づき。
ようやく探し始めるのが夜中の2時。
五郎は、マイナス20度の吹雪の中、8時間以上さらされている。
意識が遠のく中、元妻レイ子(いしだあゆみ)の幻覚を見る。
「レイ子か?・・おいらこれでおわりでいいのかな・・これ以上俺がしゃしゃり出たって・・あいつら迷惑に感じるだけだ・・」
「ダメ。あの子たちまだ巣立ったばかりだから、きっとまた、すぐ巣に帰りたくなるから。寝ちゃダメよ。しっかり巣を守って」
結局、棟梁が来てくれて朝方発見し、一命をとりとめる五郎。
翌日、みつけてくれた棟梁にお礼のあいさつをする純と蛍。
棟梁は石の風呂の事故現場を検証している。
純「医者は奇跡だって言ってました」
そして大地康雄扮する大工の棟梁の言葉。
「それは違うな・・・それは違うよ」
「これは運じゃない、あいつが自分で生きたんだ」
「これを見ろ」
「下半身の動かん体で・・」
「たぶん、その針金で、シートを引っ張り・・」
「屋根作って、雪から身を守り・・」
スコップ。柄の部分が削られている
「柄の部分を削って、燃やそうとまでしてる」
「あいつは自分で生きたんだ」
「お前ら若いもんにこの真似が出来るか」
「お前らだったらすぐに諦めてる」
「諦めて、とっくに死んでる」
「あいつはすごい」
「たった一人で・・・」
「俺は涙が出る・・本当に涙が出る」
この後、蛍は札幌に行くの止めると言いだす。
純は、今更そんな事言っても父さんは傷つくだけだから蛍は黙って札幌にいけと言う。
そして、今度は俺が富良野に残ると。
「前からなんとなくは考えてたんだけど、棟梁の言葉で決心がついた」
「漠然とだけど、やりたい方向性が見えてきた気がするんだ。東京はもう未練ないんだ」
金では買えない大切なもの。
知恵と、自分の手と足と、根気。
そういう五郎の人としての大きさ。
純と蛍も少しわかってきたということでしょう。