takeの感想文マガジン

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ソング・オブ・サンデー  藤堂志津子

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ジャンルでいえば比較的軽いラブコメに分類できますが、

私の好きな小説ベスト10に入る作品です。

本作の簡単な説明をするのに実にちょうどいいので、冒頭の書き出しをそのまま抜粋します

 

 

ドライブに行く約束の今日の日曜日だった。

 4日前の晩に電話をかけてきて、挨拶もそこそこにそれを言ってきたのは鉄治からで、利里子はとっさの事にまごついた。

 知り合って2年になるけれど、これまでいっぺんもそういった誘いを受けたためしはなく、だいたいが、そとで食事をしたり映画を観たりという間柄ではない。

 二週間か十日に一度、仕事帰りの鉄治がふらりと利里子の家に立ち寄り、玄関先で立ち話をしていく、といったつきあいがずっとつづいていた。

 

 

絵描きの利里子(42歳)と、彼女の自宅のリホームを手掛けた事で知り合った大工の鉄治。二週間か十日に一度、玄関先で立ち話をしていく関係を2年間続けた後のある日曜日。互いの飼っている犬を連れて初めてドライブデートに行って、帰ってくるまでの1日の話です。

 

藤堂さんの作品の真骨頂は男女の微妙な関係を描く事だと思います。最近の流行はみずみずしくもどこか白々しい純愛劇か、もしくはドロドロの愛憎劇、といった極端にデフォルメして描いているものが多いように感じます。本作はその中間の程よいところを平静にすり抜ける感じが逆にスリリングでドキドキするんです。実際のリアルな恋愛も「こういうもんだよな」と思います。しかし、小説やドラマなどのフィクション界ではポピュラーではないようで、あまり他にこういうところ描いたものって少ないんです。そこがまたいいんです。

文章は気取らない文体で読みやすく、言葉がすっと心に入ってくるんです。まるで小田和正さんの歌のように。それでいてシンプルな言葉の並べ方にもやはり、作家としてのウイットには富んでいて、そこかしこでクスっとさせられます。さらに、エンターテーメント性の強い比較的軽めのなんてことない恋愛ストーリーの中に、人生観をも揺るがすような心に響く一文がちょいちょいあるんです。そこがたまりません。

 

 その中の私の好きな一文を本文から抜粋してこの本の紹介とさせていただきます

 

 

「おばさんも。いえ、おねえさんも若すぎると思う?」

「そうねえ。むずかしいわねえ。若いと結婚に失敗するとも限らないし、結婚に失敗したからって、それで一生を棒に振るわけでもないし、たとえ一生を棒に振ったって、それはそれで一つの人生だし、でも、一生を棒に振るって意味が、そもそもよくわからないし、私は、トシこそくっているけど、若い人たちに適切なアドバイスをしたり、お説教をするってことがどうもできないたちなのよね。どうしてかっていうと私自身が全然人生をわかってないみたいで」

 

!少々ネタバレあり!

 

 鉄治はちょっとガサツな性格。すったもんだ道中いろいろあり。帰りに鉄治の実家に寄った際の事。実は鉄治はバツイチで20歳の息子がいる事が判明。元妻とは死別。息子は実家に預け別居中。その息子が就職するに事になり、身元保証人の印鑑を押すために立ち寄った。しかし息子の竜治から不意に18歳の彼女サチを紹介され、結婚したいと告げられ激怒。その空気に耐えられず家を飛び出したサチが、家の前の路上に駐車した車の中で待っていた利里子と遭遇した時の会話。サチは利里子を鉄治の彼女と思って・・

 

 

人生の成功とか失敗とか、勝ち負けとか、一時の事で判断はできない

 

そんなことを感じました。