邦画「寝盗られ宗助」感想~人間の器の大きさとは~
公開 1992年
原作 つかこうへい
監督 若松孝二
今まで観た邦画ベスト5に入る作品です。これぞまさに隠れた名作です。
旅一座の座長、北村宗助(原田芳雄)と、その看板女優、レイ子(藤谷美和子)と、
団員達との人情話です。
座長の宗助とレイ子は一応内縁関係です。しかし映画のタイトルから想像できるそのままに、団員達に何度も寝取られるのですが、怒りもしません。
宗助は、言動は粗暴でガサツです。あの原田芳雄がまだギラギラしていた時代の作品ですから。しかし、バカが付くようなお人好しです。
重い腎臓病になった団員のジミー(筧利夫)には、家族でもないのに腎臓を提供しながらも、レイ子を寝取られ、あげくに駆け落ちする際のお金まで工面してやります。
宗助はレイ子に愛がないわけじゃないんです。
「くっついて別れるのに十分な時間をやるから必ず帰ってこい」
と言って、手を振って送り出すんです。
レイ子もジミーを本気で好きなわけじゃないのは明らかなんです。
レイ子が団員たちと、ちょこちょこと浮気を繰り返すのは、団員たちを家族のように大事にする宗助の気持ちを、もう少し自分に集めたい一心からです。
宗助も、そんなレイ子の気持ちは十分理解しています。だからこそ怒りもせずさせるがままにしています。
レイ子も、そういう大きな度量の宗助だからこそ愛していて、他の浮気相手など初めから、本気にはしていません。
宗助は自分の態度が、男としてはダメだともわかっていて、最終的にはレイ子との結婚を決意するのですが・・。
この作品、公開されたのが1992年ですから約25年前です。
僕が初めて観たのは20代前半で、当時の僕にはかなりインパクトのある作品でした。
この宗助役の原田芳雄がめちゃめちゃかっこよく思えました。
寝取られても怒らず、お金まであげちゃう懐の広さ、人間の大きさが、
カッコイイ大人の男に思えました。
自分もこんな人間になりたいと、人生観に大きな影響を与えられました。
ただ、レイ子の気持ちは、昔見たときは今一釈然としなかったんです。
上記した内容の感じがなんとなく「そうかなあ」とは思っていたのですが、本当にそうなのかなあ・・女心はわからんからなあ・・みたいな事で。
今回40代半ばになって見返してみてると、そこはかなりハッキリしています。
上記した二人の気持ちはほぼほぼ間違いなく、「・・かなあ?」ではなく、
複雑な、一筋縄ではない男女の関係と思っていたのですが、
いやいやなんの、結構わかりやすくシンプルに描かれています。
実際、ある程度生きてくると、こういう男女は結構いるし。
まあ、めんどくさいカップルですよ。
結局、そんな二人の関係をどうとらえるかでこの映画の賛否は分かれると思います。
宗助の気を引きたくて浮気を繰り返すレイ子は、結局、毎回相手の男に本気はなく、ほどほどに戻ってくるにしても、相手の男たちは本気になっているようで、もてあそばれて捨てられるのですから、相当な悪女ともいえます。
宗助も、団員たちを家族のように愛し、自分の女を寝取られても怒らないのは、
「度量の大きさ」とも受け取れますが、やはり一線を越えさせてはいけないし、
そうさせてしまうのは、「男としての甲斐性の無さ」とも受け取れます。
僕は、昔観たときも今回観たときも、宗助の「度量の大きさ」に心惹かれました。
それは原田芳雄の風貌と演技力によるところが大きいというのもありますが・・。