「大岩壁」笹本稜平 読書感想
初版 2019年5月 文春文庫
あらすじ
「魔の山」、ナンガ・パルバット。この山は別格だ。
ヒマラヤ、8000メートル級の山のなかで、多くの犠牲者を出し、通称「人食い山」の異名で恐れられてきた。
立原祐二、48歳。5年前に、3名のパーティで登攀に挑むも、頂上目前にして断念。しかも、自身の指だけでなく、大事な友人・倉本を失った。が、クライマー人生を締めくくるにあたって、生還した木塚とともに、再び「魔の山」に挑むことを決意する。
緻密な計画を積み重ねているうちに、予期せぬ参加希望者があらわれた。倉本の弟、晴彦だ。卓抜たる技術を持つもまだまだ経験に欠け、高度順応も未知数。しかも、協調性をふくめて人間性に問題があるばかりか、兄の死に不審を抱いている気配がある。さらに、同じく冬期初登頂をめざすらしいロシアのパーティにも不穏な動きがある。
さまざまな不安要素を抱えながらも、登攀は開始された。
天候だけでなく、予期せぬ事態が出来し、人を、その人生を試すのが山なのだ。立原はあらためて、その思いを強くする。苛烈な状況のなか、登頂を目指す彼らの行く末は?
ラストまで予断を許さない緊迫の山岳小説。
(アマゾン商品紹介より)
最近老眼でなかなか読書が進まない私が一気読みできちゃいました。
純粋な山岳小説というよりはエンタメ色が強い作品です。
本物の登山家が読めば「そんなバカな」という展開でしょう。
好みの別れるところでしょう。
僕も基本的には純粋な山岳小説の方が好きですが・・。
たまにはこんなのも面白い。
そもそも冬にヒマラヤの8000メートル峰に登ろうとすること自体が
普通の人間の感覚から言えばナンセンスです。
そういう意味では山岳小説とはナンセンス小説とも言えます。
しかし山屋には山屋の常識がある。
そんな山屋の常識をことごとく打ち破る若手クライマー晴彦の動向に
ベテランクライマー立原は翻弄されます。
立原は「冬季初登頂の栄誉よりも生きて帰る事が大事だ」といいます。
しかし晴彦は「生きて帰るのが大事なら、はじめからこんなところに来なければいい」と反論します。
生死ギリギリの境界で、前進か?撤退か?
常にそういう葛藤にさらされていき・・・
登攀技術や風景描写はまるでその場に居合わせているかのような臨場感。
さて、問題児、晴彦がどうなるのか?
我々読者も目が離せません。
究極のナンセンス。その向こう側に見えるものとは・・・。