「蜜蜂と遠雷」 恩田陸 読書感想
初版 2019年 4月 幻冬舎文庫
あらすじ
近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。自宅にピアノを持たない少年・風間塵15歳。かつて天才少女としてデビューもしながら母の突然の死去以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。楽器店勤務のサラリーマン、高島明石28歳。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?
極力、人間ドラマをそぎ落とし
コンクールの演奏だけで進行していくところが斬新でした。
4人のキャラが1次、2次、3次、本選と勝ちあがっていく中で、
それぞれの演奏についてのいろんな角度から描写で綴られていきます。
次はどんな演奏を披露してくれるのか・・
ワクワクが止まりません。
そしてその音楽を、どう文章で表現するか・・
そのワクワクも。
普通なら、恋愛とか友情とか師弟とかのドラマでその隙間を埋めたくなるところでしょうが。そこに逃げず?
しかしそれが見事に表現しきれていたかといえば
そこはもう一歩かな・・・
後半の演奏描写は同じ表現の繰り返しで、いささかだれる感じは否めず、
つい飛ばし読みしてしまいましたが・・・。
ただ、それがいかに難しい挑戦であったかは想像できるし
そのチャレンジ精神には敬意を表したいところです。
そしてもうひとつの魅力は、4人の主人公をコンクールの戦いのライバルとしてを描くのではなく、互いの演奏から刺激を受けながら覚醒していく様子を、フレンドリーに描いているところでした。
本選の頃には皆が勝ち負けなど、どうでもいいと思っている・・・
特に風間塵の演奏を機に覚醒していく亜夜がいいです。
3次予選で見せた亜夜の覚醒が本作のテーマでもあるのでしょう・・。
たかが20年生きてきただけで、自分が立派な存在になったと思っていたのではないか?
ちっぽけな自尊心・・。
なんて馬鹿なんだろう。小さい時のほうがよっぽど賢かったし、きちんと世界を理解していた。
あたしは、おのれの見たいものだけを見て、おのれの聞きたいものだけを聞いて生きてきた。鏡の中に、自分の都合のいいものだけを映してきたのだ。
いやあ、耳が痛い痛い・・・。
しかしまあ、人生こういう堂々巡りなのでしょう・・・。
調子よくなると、つい驕り・・・どん底になってようやく謙虚に立ち帰る
そして調子が上向きになってくるとまた驕り・・
この物語の主人公たちも、これから先、まだまだ七転八起しながら歩んでいくのでしょう。