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「哀しみの女」五木寛之 読書感想

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初版 1989年8月 新潮文庫

 

あらすじ

年下の画家・章司と暮らす和実は、たまたま見かけた異端の天才画家エゴン・シーレの作品「哀しみの女」に、自分の未来の姿を予感する。そして、彼女は、モデルであり画家の愛人でもあった女の薄幸な人生に、自分の運命を重ね合わせていた…。ウィーン世紀末の画家とモデルとの退廃的な関係を現代に重ねて、男の野心と女の愛を描く大人のための恋愛小説。

(アマゾン商品紹介より)

 

この作品で、エゴン・シーレという画家も「哀しみの女」という絵も初めて知りました。

たしかに、なんとも惹きつけられる絵です。(文庫表紙の挿絵)

この絵のモデル、ヴァリー・ノイツィルは14~15歳にして50歳のクリムトのモデル兼愛人でしたが、17歳の時、当時すでに巨匠だったクリムトから気鋭の若手画家エゴン・シーレに譲られました。「私は飽きたから、君にあげるよ」とばかりにかどうかは知らないけど・・・。シーレのもとでも生活を共にし、はた目には異常と見える彼のどんな要求も拒みませんでした。そんな4年間の同居生活の末、シーレがあっけらかんと別の女と結婚をすると決めた時、泣きも、怒りもせず、むしろ控えめな感謝の言葉を残して去っていったのでした。

 そういう背景を聞いたうえで改めて観るとひときわ深い感情が押し寄せてきます。

今どきの若い人に聞けば、サイテーな男たちに振り回された哀れな女の精いっぱいの強がりの表情とも言われそうですが・・・。

そういうことではない、もっと深い女の包容力というか、女とか男とか関係ない、人としての哀しみを越えた先の心の気高さというか、そんなものをたたえた表情にも思えて・・・。

この作品は、そんなエゴン・シーレの絵に触発された五木さんによって、

絵のモデル、ヴァリーの人生に重ねて、

札幌のガールズバーから銀座のホステスへ、そして男を変転としていく主人公が描かれていきます。

インモラルな男女の不潔な話と切り捨てる人も多いでしょう。

これが大人の愛とか、究極の包容力とかいって賛美するのも違うでしょう。

哀しみの状況にありながら、そういう状況に自ら飛び込みながら、そこに生きる得を見出し、

前を見て歩もうとする人の・・・

その先のなんと言ったらいいかわからない、深く微細な心の機微を感じます。

ああ・・うまく言葉にできない・・・。

私にとって、生涯ベスト級に加えられる素敵な一冊となりました。

 

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