「滅びの前のシャングリラ」 凪良ゆう 読書感想
初版 2020年10月 中央公論社
あらすじ
「一ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる」学校でいじめを受ける友樹、人を殺したヤクザの信士、恋人から逃げ出した静香。そして―荒廃していく世界の中で、四人は生きる意味を、いまわのきわまでに見つけられるのか。
(アマゾン商品紹介より)
デザスターものと言うんでしょうか、デストピアものと言うんでしょうか・・。
ハリウッド映画や海外ドラマではおなじみの設定ですね。
ただ、本作は科学者が主人公で隕石衝突を回避させてヒーローになる。
という、ものではありません。
本作の主人公4人、いや5人は、普通の人。どちらかと言えはマイノリティーで
平常の社会では生きづらさを感じている人たちです。
一か月後の隕石衝突は逃れようもなく、決定事項で・・・。
最初は何か観念的な世界観の話で、「夢落ちか?」とも勘ぐっていたのですが
それもなさそうで・・・。
今までまともだった側の人間たちが壊れていき、社会機能は停止し、
世の中が隕石衝突を待たずして略奪、暴行の無政府状態と化していく様子が描かれてく中、
主人公たちは、逃れようもない「死」を実感して逆に「生」を生き始めていく、
という話です。
生と死。
という重いテーマを描きながら、世の中が荒廃していくにつれて
平時にはむしろ絶望の淵にいた主人公たちの心の平穏は増していき・・
おそらく意図的に肩の力を抜いた文体とあわせて
ぜんぜん重さを感じさせないんですね~。
この辺りが好みの賛否分かれるところでしょう。
デザスターものとしてはハラハラドキドキ感がない。
主人公たちの感情の部分があまりに落ち着きすぎてリアリティーがないとか。
そもそもの設定がファンタジックとか。
そんな批判もあるでしょう。
読者それぞれに受け止め方はあってイイと思いますが。
私の意見を語らせてもらえば、
1か月後に死ぬとしたらどうする?・・・を考える事は
別に、地球に隕石が落ちてこなくても、いつか、必ず誰しもにやって来ることで。
本作は決して漫画チックなファンタジーではないと思います。
死をいかにして迎えるか・・・を考える事は
それまでどう生きるか・・・を考える事であり
生と死はある種、同義でもあるよな~と。
そして、死を切実に考えた時、人は本能に帰るな~と。
どうせ死ぬなら、やりたいことやろう・・・
本作の中で民衆が暴徒化していく様子では、人間の根底に流れる欲望と本能の醜態を
まざまざと見せつけられ、それは嫌でも認めざるを得ないリアリティーをもって迫ってくるけど・・・
そんな中での主人公たちが逆に落ち着いていく様子。温かさを取り戻していく様子は、
1つの理想形としての作者の提案じゃないかな。
絶望の淵にあっても・・いや、そういう時こそ
人としての理性は最後まで失わないでいたいよね・・と。
別に世の中を動かす大きなことは成せなくとも、
身のまわりの数人ぐらいには
優しい気持ちや感謝の気持ちをもっていたいよね・・と。
そんなことを感じたのでした。
実際、ホントに死を前にしたらジタバタと
わがまま放題わめき散らしてしまうかもですがね~。
ま、「理想の死に方」を平時から考えておくのは大事だな・・
などと、思ったのでした。