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「六月の雪」乃南アサ 読書感想

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初版 2021年5月 文春文庫

 

あらすじ

30代前半、独身の杉山未來は、声優になるという夢に破れ、父母、妹、弟と離れ、

祖母・朋子と東京でおだやかな二人暮らし。
ある日、祖母の骨折・入院を機に、未來は祖母が台湾うまれであることを知る。
彼女を元気づけるため、未來は祖母ゆかりの地を訪ねようと台湾へと旅立つ。
ところが戦前の祖母の記憶はあいまいで手掛かりが見つからない。
そこで出合ったのはひと癖もふた癖もある台湾の人たち。
台湾が日本の植民地であったこともぼんやりとしか知らない未來は、中国国民党に蹂躙された台湾の人々の涙を初めて知る。
いっぽう、朋子は認知症を発病し、みずからの衰えに言いようのない恐怖を覚えていた。
それに追い打ちをかける、朋子の遺産目当ての実の娘、真純(ますみ)の突然の出現……。
未來は祖母のふるさとに辿りつくことができるのか。
朋子の衰えに、未來は間に合うのか。そして長い旅路の果てに、未來が下した重大な決断とは……。

(アマゾン商品紹介より)

 

昔、台湾を日本が統治していたことも知らない30歳そこそこのネーちゃん未来。

ばーちゃんが台湾生まれの日本人、いわゆる「湾生」だと知り、

ばーちゃんの思い出をたどる旅に出る。滞在予定は1週間。

中国語も英語も全く話せない未来に、大学の先生をしているお父さんが台湾人の元教え子を紹介してくれて、現地でその人リイカと落ち合う。

しかしリイカは感情表現に乏しく、何を言ってもそっけない。

何よりもあいさつ的な言葉を言わないことが未来をイラつかせる。

挙句の果てに突然、用事があると帰ってしまう。

何と無責任な!と憤怒する未来だったがリイカは代わりの案内人を紹介してくれる。

この案内人、洪春霞(こうしゅんか)は少し乱暴だけど、気のいい愛嬌のある若い女性で

そんな彼女にバイクであちこち振り回されては、怪しげな屋台の生臭い魚料理を食べさせられたり・・・と。

前半はドタバタ珍道中的、台湾旅行記の様相で。

日本統治時代の名残が残る台南地方のエキゾチックな街並みを

主人公の未来と一緒に楽しく旅行している気分で読める。

しかし、中盤から後半にかけては、

日本統治から蒋介石国民党統治に変わった事による、台湾人たちの長い苦悩の歴史。

2・28事件。40年近い戒厳令下での疑心暗鬼による人々の心の疲弊。

そんな史実が描かれていきながら・・。

そんな台湾の歴史とは関係ない、どの国にでもある負の連鎖の家族の話が

長々と語られていく。

 

私はどーもそういう人たちは、社会や環境の問題というよりは、

当人たちの人生の選択の判断基準に問題がある気がしてしまう。

人一倍愛情はあるはずなのに、何かねじれてしまう人。とか。

家族のために、お金のために、自分を落としてしまう選択をしがちな人。とか。

一度悪い方に向かうと、またそれが悪運を呼び寄せてしって・・・。

いつしかコントロールの利かない負の連鎖に陥ってしまう。

そんな人たち。

人生の岐路に立った時、後になってその選択を自分自身で誇れるかどうか

それが大切だと思う。

しかし、そんな人たちからすれば

恵まれた日本から来た呑気で浮ついた旅人である主人公の小娘にも

数日に及び時間を割いて何かとあれこれお世話をしてくれる。

荒涼とした心の中にも宿る、人の温かさというのかな。

そういうものは感じられて・・・

なんとも言えない生命の力強さを感じた。

ラストでは

台湾人は、特に国民党統治時代の人は反日派で感情表現が乏しい傾向があり、

本音を言えない、正直に生きられない。人が多いのだと語られる。

最初の案内人リイカも実はその世代の人だった。と。

それは長い戒厳令下での、人々の疑心暗鬼と抑圧の中を生きなければならなかった

歴史的背景が起因しているのではないかと。

今のコロナ戒厳令でも同じような現象が起こりつつあると感じていて。

結局怖いのは人の疑心暗鬼で。

人間の本質は昔から何も変わってはいないと。

だからこそ、歴史をちゃんと検証して教訓にしなければいけないと。

そんな事をふと感じたりしたのでした。

総評としてはいかんせん中盤の身の上話が冗長な事と

ラストの運命があまり・・・釈然としない。

まあそれは

過去を振り返ることを美談にしたくない。

どんなに懐かしんでも過去は帰ってこない。

過ぎ去った時間は戻せない。

だからこそ今の一つ一つの選択をきちんと考えて行動しよう。

という作者の厳しくも温かい励ましの視点でもあるのかなぁ~。

と。そんな事を思ったのでした。

 

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